2012年12月17日月曜日

輪読

 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界」読了。


 ミステリィ作家森博嗣の、もうひとつの顔である大学研究者としての成り立ちを小説化したもので、モデルとなった先生に対する尊敬の念や学問への愛情が伝わる、心に響く作品。両親について書いた「相田家のグッドバイ」と並んで、森博嗣はこれを書いておきたかったのだろうと想像させられた。

 僕も大学院の修士課程まで行ったが、文学研究科だったせいか、先生は何も教えてくれなかった。授業は数人でテキストを輪読するだけで、論文指導などされた記憶がない。単に自分に能力がなく、先生の後ろ姿を見て自発的に学ぶ器ではなかったのだとは思うが、それ以上に、当時の先生は、文学は人に教えられるものではないという考えが支配的で、後進を育てるという姿勢が弱かったか、まったくなかった。
 森博嗣の小説で描かれているところでは、理系では、学部の卒論指導では、研究の目標とそこに至る道筋を先生が示してくれる。修論指導では、目標は与えられるが道筋は自分で考えなければならない。博士課程以降は一人前とみなされ目標も道筋も自分で見い出していく、と同時に今度は自分が後輩の指導に当たる。
 どう考えても理系のほうがシステマティックで、人が育つと思うが。


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